塞翁失馬、焉知非福

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後悔しない人生のために。お笑い芸人、石井てる美さんの著書「私がマッキンゼーを辞めた理由」を読んでの感想。

東大、東大院を卒業後、世界有数の外資系経営コンサルティング会社であるマッキンゼーに勤めていた著者が、その会社を辞めて芸人養成所に入るまでに過程とその後を書いた本です。

非常に読みやすく、また大変勇気づけられる良書でした。自分の経験と照らし合わせて、共感できる部分も多かったです。自分の意見も交えながら、この本を自分なりの視点で紹介してみます。もし興味を持たれた方がいましたら、ぜひ書店で手に取ってみてほしいです。

著者の石井てる美さんについて

石井さんは、東京大学工学部卒、同大学大学院修了という非常に立派な学歴を持っています。TOEIC満点に英検1級と、英語も堪能な方みたいですね。大学院終了後にマッキンゼーに入社しますが、約1年半後に同社を辞め、お笑い芸人の養成所であるワタナベコメディスクールに入学します。現在はワタナベエンターテインメントに所属し、お笑い芸人として活動されているそうです。

石井てる美 - Wikipedia

本の構成

本書は下のような三部構成になっています。

  • 第1章「マッキンゼーと私」
  • 第2章「私の決断」
  • 第3章「決断のその先へ」

第1章は主にマッキンゼーという会社についての説明になっています。マッキンゼーというのはどんな会社か、またその環境で著者が何を学び、如何に成長したかが書かれています。

第2章では、マッキンゼーの過酷な環境下で心身ともに憔悴した著者が、退職を決断をするまでの過程が書かれています。本書の中心となる章だと思います。

第3章はマッキンゼーを辞めた後の話です。周囲から見ると「もったいない」とも思える著者の選択ですが、この章を読むと、石井さんは決して後悔していないということが伝わってきます。

マッキンゼーとはどんな会社か

本の題名にもなっているマッキンゼーというのは、アメリカのコンサルティング会社で、日本にも支社があります。コンサルティングというものに特に興味がない私でも知っているほど、有名な会社です。

マッキンゼー・アンド・カンパニー - Wikipedia

マッキンゼーという会社について、石井さんは次のように描写しています。

実際に入社して感じたのは、マッキンゼーとは「100m走のスピードでフルマラソンを走るような会社だ」ということです。私にとって「常に修士論文締め切り1週間前のワナワナした状態が続いている」という感じがしました。マッキンゼーのクライアントは大企業ばかり。その大企業が抱える難題を多額のフィーをもらって解決しなくてはいけないわけですから、必然的に仕事量は多くなり、ものすごい量とスピードを要求されます。

何だか大変そうな会社です。入社直後の研修から帰りは夜の12時近くで、明け方に帰ることも珍しくなかったとの記述もあります。タクシー移動のわずかな時間に電話会議が入っているとか、弁当を食べながらの会議が日常的に行われているとか、とにかく本当に忙しそうです。

著者がマッキンゼーで学んだ「仮説思考」

問題解決のプロ集団、マッキンゼーの中で揉まれ、著者の石井さんは多くのことを学び成長していきました。その中の一つに「仮説思考」と著者が呼ぶものがあります。解決すべき問題を見つけたら、その問題に対する解決策の「仮説」を先に立て、それからその仮説が正しいかどうかの検証を行い、仮説が間違っていると分かったら修正を行う、という考え方です。

石井さん曰く、

そして、この仮説思考のいいところは、「仮説が間違ってたな」と分かれば、即書き換えればいいだけだというところです。私のケースに当てはめると、「芸人になるのは違った」と分かれば、やめてすぐにまた他の生き方を探せばいいだけのことだと気づきました。そう思うと挑戦への気持ちがラクになり、また挑戦しない理由が見当たらなくなりました。

この「違ったと分かればまた他の生き方を探せばいいだけ」というのは本当に重要な考え方だと思います。

私もかつて転職を経験しています。転職する前は「今まで進んできたこの道を外れたら、もう自分は終わりだ」と勝手に思い込んで、他の選択肢を検討することもしませんでした。でも一度転職してみて、生き方なんていくらでもあることが分かりましたし、自分さえやる気になればどんな所でも生きていけるんだ、という自信もつきました。

「もし生まれ変わったらやりたいこと」こそが自分が本当にやるべきこと

著者の石井さんはずっと、生まれ変わったらお笑い芸人になりたいと思っていたそうです。しかし一方で、そのように夢の分野に進む人を見るとイタいなと思うなどしていたそうです。石井さんにとってお笑い芸人はあくまでも「もし生まれ変わったら」やりたいことであって、決して今の人生でやりたいことではなかったのです。

でも、「生まれ変わる」なんてことは実際には起こりません。精神的にも肉体的にも負荷の多い環境にいて、石井さんは死んだ方が楽だとも思えるまで追い詰められて、ようやく自分が本当にやりたかったことをやろうと思えたようです。

死ぬか、今芸人をやるか。だったら芸人になるしかない。

この「生まれ変わったら何をしたいか」とか「人生がもう1つあったら何になろうか」と言った妄想は、私も転職前はよくしていました。そして、その「生まれ変わったらやりたいこと」に、その時やっていた仕事は含まれていませんでした。

これは私見ですが、「生まれ変わっても今の仕事がやりたい」と思えないのなら、それはその仕事を続けるかどうかを考えるべき時なのかもしれません。幸い私は転職をして、そのような妄想に憑かれることも無くなりました。

無責任な他人の意見には耳を貸さない

著者の石井さんがお笑い芸人になることを決めた時、いろいろと否定的なことも言われたそうです。

「今お笑いブームじゃないのになんでわざわざ……」「そういうのやる人イタくない?」「いやー、ムリでしょー」などなど、散々言われたようです。また中には「心配をするフリをする人たち」もいたそうです。直接連絡してくるのではなく、本人のいないところで「石井さん大丈夫かな」などと周りの心配を煽ってくる人たちです。他にも、大人になったらみんな夢は諦めて我慢して生きていくものなのに、自分だけその枠から逃げるなんてズルい、といった言い掛かりまで付けられたこともあったそうです。

そんな周囲の無責任な批判に対し、石井さんは次のように述べています。

いろいろな人がいろいろなことを言ってきましたが、心から応援してくれた上での言葉なのか、自己防衛から否定してきているだけなのかはすぐに分かります。私は、人から言われることは少なからず気になってしまいます。なので、否定から入る人には、他人を批判することでしか自分の世界を守れないんだなと悟って、まず自分から近づかないようにしていました。一方で、「本当にやめた方がいいと思ったら止めてるから。あなたなら大丈夫」と言ってきてくれた友人がいたことは幸せでした。

こういう雑音は、人と違った決断にはつきものだ、と石井さんは言います。私も石井さん程ではありませんが、周りと違う選択をすることが多かった人間です。その度に色々なことを言われました。進学、留学、結婚、転職、そういった人生の節目節目で、人は色々と口を出してきます。もちろん、自分から相談しに行った相手に色々と言われるのが嫌だと言っているのではありません。自分がその人に話した訳でもないのに、どこかから聞きつけて来て余計なお節介を出す人たちのことを言っているのです。

私がそういう人たちを無視して自分で決めようとしても、「貴方ちゃんと考えてる?」「みんな貴方のことが心配だから言ってるんだよ」「貴方ね、もっと人の意見聞いた方が良いよ」などと言ってきます。そんな人たちは結局、自分と違う選択をした相手が幸せにでもなったりしたら、自分の選択が否定されたような気がしてしまう、弱い人たちなんだと思います。私はそのような人からは離れるようにしています。

一方で、「貴方が選んだ道ならたぶん正しい道だよ。でも悩んだり困ったりすることがあればいつでも言って。力になるよ。」そんな温かい言葉を掛けてくれる人も中にはいます。一見すると無責任に見える後者の言葉の方が、よほど自分に力を与えてくれます。

終わりに

私自身も以前、ずっと志してきた道を捨てて転職するという決断をしています。この本の著者の石井さんとは逆の形で、最初に自分がやりたいことを選択し、その後でもうちょっと堅実な道に変更しました。今振り返ると大したことではありませんでしたが、その当時は大変な勇気を振り絞っての決断でした。そんな時期にこの本に出会えていたなら、きっと勇気をもらえていただろうになと思います。

人生の選択に悩んでいる方は、本書を読んでみたら何か自分の中で変わるものがあるかもしれません。ぜひ一度手に取ってみてください。お勧めです。